アリスズc
#
 リリューは、母と父を見た。

 父は、穏やかに。

 母は、迷いなく。

 こちら側にいる自分が、戸惑っていることが、逆におかしく感じられるほどだった。

 サダカネ。

 母の愛刀。

 母が、祖国から持ち込んだ、たったひとつの武器。

 こちら側でつくられる日本刀とは、一目で違うと分かる逸品。

 鍛冶屋は、日本刀を作ってはいるが、決して満足はしない。

 サダカネがある限り、彼らに満足出来るはずがなかった。

 その刀を、母は事もなげに差し出す。

「かあさん…」

 重い。

 受け取るには、余りに重い刀。

 リリューは、手を出せないでいる。

「私は、定兼と旅をしてきた…お前も、一緒に旅をしてみろ」

 それは。

 その刃は、母の血と肉と同じもの。

 身のひとつ、魂のひとつ。

 それを、自分に渡そうとしている。

 愛を。

 愛を、疑ったことはない。

 海辺でみなし子になった自分だが、ただの一度も自分がこの家で厄介者だと思ったことはなかった。

 それは、本当はとても難しいことだ。

 そして。

 本当にとても幸福なこと。

 だから、彼はこうして立っていられるのだ。

 手を、伸ばす。

 両手でしっかりと、その重みを握りしめる。

 ずしりと、本当にサダカネは重く感じた。

 丸腰になった母は、同じように立ち続けている。

 それでも。

 とても、母に勝てる気はしなかった。
< 29 / 580 >

この作品をシェア

pagetop