アリスズc

「面倒臭いな、女は」

 テルが言うと、ヤイクは盛大に笑い倒した。

 投げつけられた置物は、彼を直撃することはなかったが、結果的には応接室を追い出される羽目となったのだ。

「殿下が、まさかそこまで直球で行かれるとは思わず、助言しておりませんでした」

 ヤイクからすれば、テルの行動は余りに無謀に映るのだろう。

「大体、太陽妃になりたいと言い出したのは、向こうだぞ? 子を産むことは、大事な役目だろう」

 子が先か、婚姻が先かなど、テルにとってどうでもいい話だ。

 事実、母も双子を産んだ後に、ようやく結婚したのだから。

「日向花殿下は、本当は太陽妃の地位を欲しがっているんじゃないと思いますがね」

 ヤイクが、奇妙なことを言った。

 世界に一つしかない肩書を、それを手に入れられる位置にいる女が、本当は欲しがっていない?

「殿下、お忘れなきよう…彼女は女性なのです。いえ、これだと世間の女性に失礼ですね。日向花殿下は…自分を幸薄い人間だと思っている女性なのです」

 その言葉には、ヤイクらしいたっぷりの皮肉が込められていた。

「『かわいそうなかわいそうな私は、どうやったら幸せになれるのかしら』」

 彼の声で女の真似は、正直聞きたいものではない。

 しかも、意地の悪い表現の毒が、たっぷりとそこにまみれている。

「『太陽妃になれば、国中の人間に、太陽妃様と慕われ大事にされる人間になれるのかしら』」

 ヤイクの掠れた甲高い言葉に、テルは頭を抱えた。

 勿論、その声がカンに障ったということもある。

 だが、その内容の余りに幼稚なことに、頭が痛くなったのだ。

 母は、特別製だ。

 あえてきっぱりというならば──珍種だ。

 オリフレアが今のまま、母になり変わることなど、到底出来るはずもない。

 そんなことも、あの女は分からないのか、と。

「殿下…核心を見誤ってはいけませんよ」

 ヤイクが、普段の声に戻すように咳払いを二度三度。

「彼女は、太陽妃になることが目的なのではなく」

 そこから先は、言われなくても分かった。

 オリフレアは──誰かに愛されたいと渇望しているのだ。
< 300 / 580 >

この作品をシェア

pagetop