アリスズc
∠
「そうですか…言ったのですか」

 ヤイクが、苦笑していた。

「どうせ殿下のことですから、優しく慰めなどなさらなかったんでしょうな」

 そして、読んでいた。

 まあ、読むまでもないだろう。

 これまでの旅路で、お互いのことはよく分かったつもりだ。

 勿論、ヤイクは隠していることもたくさんある。

 テルは、隠すのも面倒なだけだ。

 やりたいようにやり、言いたいように言う。

 ただし。

 その判断の根底には、必ずイデアメリトスがある。

 その道さえ踏み外さなければ、何をやろうが何を言おうが、自分は太陽の血を引く人間なのだ。

「そして…弱ってるところに…つけ込みましたか」

 香油の匂いがしますよ。

「そうだ」

 テルは、平然としていた。

 イデアメリトスの子を、舐めてはいけない。

 羞恥という言葉はあるが、彼らは完全なる私人ではないのだ。

 一般の人間より多くの秘密を持つが、逆にまた多くの情報も周知の事実なのである。

 暴れる気力もないオリフレアは、おとなしくテルに抱き上げられた。

 そこは、ちょうどよく彼女の私室で。

 ソファもあったが、ベッドもあった。

 弱みにつけこんだ?

 イデアメリトス相手に、弱みを見せる方が悪い。

 力ない抵抗など、抵抗の内に入らない。

 苦しげに、オリフレアは涙を流した。

 テルに、抱かれたからではない。

 彼への抵抗にかこつけて、自分の母に涙しただけだ。

 たとえ、後でどれほど違うと彼女が連呼しようとも。

 そう解釈する方が、とても都合がよかっただけ。

 彼は、良い人間である必要はなかった。

 テルは──イデアメリトスなのだ。
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