アリスズc

 売り言葉に買い言葉のように出てきた答えを、何故カラディは驚いた顔で聞いているのか。

 桃は、自分の中でもやもやしているものに、きっちり名札がついてスッキリしたというのに。

 好きだったら、何だというのか。

 泣いてすがって、行かないでと言って欲しいのか。

 それとも、全てを捨てて一緒に行って欲しいのか。

 ふざけないで。

 桃は、怒っていた。

 どれほど、この男のことを心に留めていただろう。

 首を絞めるように巻き付くユッカスの縄にもがいていた男が、本当に自由になることを、桃は望んだのだ。

 そうあって欲しいと祈った。

 そうありたいとこの男も思ったからこそ、反逆したのではないか。

 ただ、どんな見返りも期待しないで願って戦った桃に、こんなくだらない恋愛ゲームをしかけてくるのだ。

 あんな男らしくない手紙を出し、酒場で女と言葉遊びをする。

「あなたが命がけで手に入れた自由って…こんなものなの?」

 くだらない!

 テーブルの下で、向こう側のすねを蹴っ飛ばす。

 カラディは顔を歪めたが、知ったことではない。

 そのまま、桃は立ち上がろうとした。

 これ以上、話す意味はないように思えたのだ。

「待て」

 桃の動きに気づいたのか、呼び止められる。

 その言葉が。

「いや…待ってくれ」

 言葉を変える。

「俺は…まだ」

 そらされる目。

「まだ…生まれて初めての本当の自由とやらを…どう扱ったらいいか分からないんだ」

 不承不承、紡がれる言葉は困惑に満ちたもの。

 生まれて初めて。

 この国にはない階層の生まれで、それからずっとずっと誰かの持ち物だったカラディが、初めて手に入れた自由。

 それに、心の底から戸惑っているのだ。

 はぁ?

 桃は、すっかり毒気を抜かれてしまったのだった。
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