アリスズc

「…分からない」

 それが──カラディの答えだった。

 分かっていた。

 いや、分かったのだ。

 彼は、桃を通して自由という夢を見てしまったのだ。

 それは、彼にとってどれほど眩しく素晴らしいものに見えただろう。

 いっそ死んでしまえばいいと、憎しみに似た感情までわきあがらせるほど。

 桃は、彼にとって人であって、人でなかった。

 人では、なかったのだ。

 自由の象徴。

 彼と同じ、異国人の血をひいていながら、この国で誰よりも自由だった女の形をした何か。

 はっ。

 自分の吐き出した息は声にはならず、立ち上がるための腕に、ただ力を込める。

「カラディ…あなたはもう、自由なんて探さなくていいわ」

 試さなくてもいい。

 不安にならなくてもいい。

 自らが、それを手放そうなんて思わない限り、もはや彼は自由なのだ。

 立ちあがって、カラディを見る。

 茫然と見上げる男を見る。

 酒場の扉が開くのと、桃が次の言葉を言うのは、ほとんど同じだった。

「さようなら、カラディ」

 生まれて初めての恋が、生まれて初めて枯れてゆく音が聞こえる。

 二人分の食事の前に、一人で残されるといい。

 それが、桃のささやかな仕返し。

 振りかえると。

 酒場の入口には、息を切らした弟が立っている。

 一体、酒場を何軒探したのだろうか。

 貴族の割に、根性のある弟だ。

「帰ろう」

 いまは、エインの説教が聞きたかった。

 優しい言葉は、何も欲しくなかった。

 桃は、恋を失ったのだ。

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