アリスズc

 すっかり暗くなるまで、リリューは道場にいた。

 最後の門下生が帰ってしまっても、そこにいたい気持ちに逆らえなかったのだ。

「リリュー兄さん」

 そんな闇が多く混じる中、遠くから呼びかける声。

 従妹だ。

 迎えに来たのだろうかと、視線を向けると、彼女一人ではなかった。

 というか。

 あきらかに、分かりやすいシルエットが混じっていたのだ。

 のっぽの二人と、ふくよかな一人。

 さくさく歩く二人の後ろから、遠慮がちにあるく女性の姿。

 身内の誰かに、ここにいることがバレたことについては、何の不思議もない。

 だが、レチが来たことは不思議だった。

 彼女が、来たいといったのだろうか。

「リリュー兄さん、おかえりなさい」

 最初に近づいてくるモモは、穏やかに微笑んでいる。

 この闇のせいだろうか。

 随分と、雰囲気を違えた気がした。

 彼女の母に似たと言えばいいのか──いや、しかし、まったく同じというわけではない。

 昔のモモは、華やかだった。

 明るい、朝のような色だった。

 その朝の時間を過ぎてしまったような、そんな気配。

 リリューが不在の間に、彼女を変えてしまうような大きな出来事があったのだろう。

「ただいま…」

「あんまり暗くなる前に、帰っておいでね。今日はみんなで食事しょうって待ってるから」

 挨拶だけでよかったのか。

 モモは、彼のゆっくりとした言葉の後、エインの腕を取った。

「じゃあ、後はよろしくお願いします」

 そして。

 レチを置いて、二人で帰り始めてしまうのだ。

 エインの方は、少し戸惑っているようだが。

 あっと。

 声をかける暇もなく、足の長い二人はさくさくと離れていく。

 声をかけそびれたのは、レチも同じようだった。

 途方にくれた姿で、立ち尽くしている。

「今日帰った」

 どう、彼女に呼びかけていいか分からず、何とも奇妙な言葉になる。

「それは分かってる、無事で本当に何より…」

 それは──レチも同じようだった。

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