アリスズc
∠
 そのエンチェルクは、随分とビッテと親しくなってきた。

 彼は、貴族の子息でありながらも、自分自身は貴族ではないというしっかりとした認識がある。

 そんな男は、身分のないエンチェルクと話すことも、身分のあるヤイクと話すことも、厭う様子はない。

 とは言っても、ヤイクには抗議を。

 エンチェルクには、雑事の事務的な話を、数えるほどするに過ぎないのだが。

「面倒くさい性質の人間を、選びましたね」

 ある日、ヤイクはそうテルに告げた。

 ビッテのことだろう。

 ヤイクが、毒や軽口を叩くと、彼が鋭く反応するのだ。

 いちいち水を差されて、ヤイクにしては少々煙たくなってきたようである。

 視線の先では、ビッテが火をおこし、エンチェルクが食事の準備を始めている。

「そうか? 結構バランスは取れていると思うぞ」

 テルは、ふっと微笑んだ。

 エンチェルクとヤイクの間に、ちょうどよくビッテがいる。

 女性には、無骨ながらに優しい男だ。

 それを、エンチェルクも気づいてきたようで。

 彼への態度が、前よりも柔らかくなっている。

 いい傾向だった。

 一番頑なで、心配していた彼女が、少しずつ心を開きつつある。

 ヤイク以外には。

「もう少し…彼女に優しくしたらどうだ?」

 だから、テルは一言小さく彼に釘を刺してみた。

 エンチェルクとヤイクの間が、一番うまくかみ合っていないと思ったのだ。

 すると。

 ヤイクが、苦々しげに微笑むではないか。

「あの女は、人に認められたがっているんですよ…そんな女を、どうして私が認めなければならないんですか」

 不思議な、言葉だった。

 テルでは、いますぐに理解できない何かが、その中にあった。

 認め、られたがっている?

 エンチェルクを、見た。

 彼女は──ビッテに微かに笑みを浮かべていた。
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