人魚の戒め *1page*
好奇心と後悔
 私、此処から出たいの。ワクワクするでしょう?

 必死になって尾鰭を動かした。限界まで水を掻いた。

 私はこの世界で最も速い。ノロマな警備兵なんかすんなり振り切って、水面へと急ぐ。

 空はどれだけ広いの? 太陽の輝きって何? 陸の上ってどんな感触なの?

 浮かんでくる希望の疑問。答えはこの先にある。

 跳ね上がる水しぶき。目が開けない程の……これが、光。

 どれが空? 何が太陽? 陸はどれ? ワクワクしていた。

 あ、水がない。ここがきっと陸なんだわ。
 バシャッと身体を水から上げたその瞬間。

 ーー‥息が、出来なくなった。

 助けを求めようとも声は出ず、水に戻ろうにも身体に力が入らない。

 限界か‥そう思ったその時、聞き慣れない声が降ってきた。何を喋っているのかは全く解らなかったけど、とりあえず生き物だ。

 私は必死の思いで助けを求め……気を失った。


 次に目覚めた時、私は真っ暗な水の中にいた。
 だけど狭いこの中。壁を手で伝えば、四角い匣のような物に入れられている。

 再び助けを求め、その壁を叩く。するとたちまち光が溢れ、目が眩んだ。そして私が眼前に見たものはーー‥

 私達と姿形は似てるけど、尾鰭を持たない生き物。それも夥しい数。その全ての瞳が、まるで珍しいものを見るかのようにこちらを凝視していた。

 私はそれに恐怖を感じる。


 逃げなきゃ。
 逃げなきゃ。
 逃げなきゃーー‥


 四角い匣ごと移動させられている最中、目前に私が居た大きな水を見つけた。

 ここだわっ

 そう思った私は大きく身体を揺らし、匣に体当たりした。

 見事に倒れた四角だけど、あそこまでは届かない。

 両の腕で必死に必死に前へ進む中、何度も抱えられ、何度も尾鰭で弾き返し、仕舞いには何か鋭い物が飛んできて……私を、貫いた。


 一刻の、猶予もないの。

 みんなに伝えなければならないの。

 陸に上がってはいけない。水面すらも奴らの支配下。私達の姿を半分だけ留めたおぞましい奴らは、残忍で冷酷。

 捕まったら、一生の終わりだ。


 でも私……どうやら、みんなに伝える事が出来ないみたい。

 今、私の命を以て戒めとするわ。


 水の中に居なさい。

 決して水面に出てはいけないよ。


 いけないよ。



 ーー‥いけないよ。



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