白球追いかけて
「カキィ~ン」
「カーン」
 バットとボールが擦れる音。
「セカンドッ!」
 球児たちのかすれた声が響く。
 まるで、録画されたワンシーンを何度も巻き戻して見ているような野球部の練習。
 高三の夏、オレたちの最後の夏。
 監督がパイプイスに深く腰掛ける。水分を求める軟体動物がイスにへばりついていると言ったほうがいいかもしれない。太陽にきらりと反射する銀歯をみせながら大きなあくびをする。一層けだるさを感じさせながら。
 毎日同じ練習メニューは、まるで一週間同じハンバーガーセットを続けて食べた感じ。
 見慣れた校舎の時計の針がなかなか動かない。
”まだ練習は終わらへんで!”
 こなれた関西弁で、生意気そうに告げているように感じる。
 苛立った気持ちをあらわすのも余計疲れるので、なにも言わない。たかが時計に負けたという歯がゆさ。
 本当はなかなか進まない時間に負けているのだ。
 長かった練習がようやく終わると、暑苦しくほこりっぽい、でも今振り返るとすべてが青春を感じさせるあの部室で、いつも色々とアホな話で盛り上がっていた。
「ジュンヤ、今日よ、ミウが階段上がっていくときパンツ見えてん。クロッ!」
ショートの安川、いつもこの話をはじめるバカ野郎。
「えっ、まじッ!オレも見たかったって!」
「お前、休み時間、よ~寝てるからやん」
「ってか起こせよ!!」
 安川とオレがいつもこの話の中心にいる。安川は、少年野球のころからのチームメイトであり、中学でも野球を一緒に続けてきた仲だ。安川とオレのつながりはこの「野球」という名前を媒介とした長年の連れ、いわば腐れ縁みたいなもの。納豆が引く糸みたいなものかな。細~く、長~く、少し湿っぽくも光沢がある。おそらくお互い野球をしていなかったらこの関係は存在していなかっただろう。
 
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