白球追いかけて
 パンクした自転車を見たからか、すぐに客だと気づいてくれた。
「自転車、店の中に入れて」
 低い声で言われ、店の中に自転車を入れると、おっちゃんは慣れた手つきでパンク修理をはじめた。
 タイヤとホイルをシルバーの工具で分解し、中から出てきたチューブにパンパンに空気を満たし、水を張ったバケツの中に入れる。「ブクブクブク」と空気が漏れる。そしてパンクの場所を探し出す。パンクの穴を見つけると、穴の周りを電動ブラシでこすり、チューブから透明の接着剤を塗り、パットを貼る。
 手馴れた中にも一生懸命な姿が、まるで少年のようだった。その姿を目にして、夢中になるってええもんやと思った。
 その光景が新鮮に思え、そして親しみさえ感じたのは、今、自分自身もなにかを追い求めているからだろう。十代という限りなく深い感性で、答えなきものを追い求めている。たととえ、それがなにかわからなかったとしても。
 修理中、店内をキョロキョロと見ると、大きめな日めくりカレンダーが目に入った。四月の横に、でかでかと「十一日」と書いてあった。あと三ヶ月で、-たとえどんなに長くても四ヶ月もすれば、高校最後の夏がやってくる。
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