白球追いかけて
 こうしてオレとシータは別々の野球人生を歩むことになった。あのときはどうしても納得できなかったのだが、監督の目は確かだったのかもしれない。そしてその意図は、オレが考えるよりも、はるかに深いところにあったのだろう。
 トウサ高校のマウンドではいつもシータが投げていた。体格は昔とそう変らないのに、コンパスと定規で描けるような、しなやかでありながらもシャープなフォームは芸術品になっていた。打順は二番を打っていた。シータの二番、こんなにやらしい二番バッターはいない。前に走者がいると、なおさらだ。
 高校野球名門トウサ高校のエース。うちの高校のピッチャーとは格が違う。技術ではオレの方が勝っていたはずなのに、気持ちの持ちようとは本当に恐ろしいものだ。分度器にすればわずか一度の差も、一年を三周もすると、これはとてつもなく果てしない差になる。
 そんなひたむきなシータにケメが惚れる気もわかる。だから余計に悔しかった。
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