白球追いかけて
 そのシータとケメが出会ったのは、去年の七月。
 当時二年生のオレは、県大会の予選の試合、あまりにもかけ離れた点差の中でせめて一点でもとろうとホームに滑り込んだ際に、クロスプレーで胸骨を骨折して、二週間ほど入院していた。その最初の土曜の午後に、プリペイド式テレビを見てうとうとしていると、
「ヤッホォ~」
 と言って、ヨシナとケメがお見舞いに来てくれた。
 いつも制服しか見ていない二人の私服姿は、病室に夏という季節をもたらしてくれた。二人とも仲良く色違いのキャミソールで、首元のつなぎ目がひもでくくられている。その上に軽く服がはおってあり、足にはミュール。”お姉系”までいかないカジュアルさ。二人とも本当にオシャレで可愛かった。
「誰か、お見舞いに来てくれた?」
「野球部何人か来てくれたけど、それ以外では初のお客サン」
「そっかぁ、じゃあうちら一番乗りぃ」
 ヨシナの手にはドーナツ。病院では、あまり動かないのに、思ったよりも腹が減る。特に、味気のない昼飯は食ったあとに満腹中枢が刺激され、余計に空腹を感じるので、思わぬ来訪者の思わぬ差し入れがうれしかった。
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