誘拐 ―おまえに決めた―
思わず目を見開く。
目の前には壁が広がり、自分が犯人側を向いて寝ていなかった幸運に胸をなでおろす。
そうだ。
あのとき。
大柄な男が近づいて、そして……。
何か布のようなものを口に押し当てられて、私は気を失ったんだ。
床が揺れていると感じたのは、トラックの荷台だからか。
「どこかに連れて行かれるんだ……」
本能が激しい危険信号を出す。
情報が欲しい。もっと。
今、何が私に起きているのか。
背中側から聞こえる声に耳を澄ました。