誘拐 ―おまえに決めた―
何が起きたか分からなかった。
だが父親から流れ続ける血の赤黒さは、紛れもなく現実だと伝えるには十分だった。
客の悲鳴
犯人たちの怒声
「あはははは」
悪のヒーローばりに高笑いしているのは、犯人じゃなく私。
なんかもうどうでもいい。
全部がどうでもいい。
そう思うと妙に面白くなっちゃって、
笑いが止まらない。
「ガキはやめだ」
長身の男が低くよく響く声で言う。
私に近づきながら。
「おまえに決めた」