誘拐 ―おまえに決めた―
もうすぐ走馬灯の開演時刻かと思っていたら……。
ふと指先が暖かくなって震えが止まる。
「?」
……犯人が私の手を握っている。
「何してるの!?」
って思ったけど、声はでない。
「じゃあ、行こっか」
ぐっと、そのまま手をひっぱり私を立たせる。
長身の犯人は、今この時私をさらった。
不思議だったのは、その手を幼い頃離れた母の手のように、暖かく心地よく感じてしまった自分だ。
銀行強盗 兼 誘拐犯なのに。