♂GAME♀
『てめぇ……』
こめかみから流れる血液を手に取り、見つめる智志。
と突然、玄関に走ると、勢いよく扉を開けた。
『皆さん、ここです! 神河輝はここにいまーす!!』
あまりに突然すぎて、開いた口が塞がらなかった。
何考えてんの?
もしかして頭がおかしくなっちゃったんじゃ……
『綾香、逃げるよ』
と、私とは逆に輝はあくまで冷静。
クローゼットを開けると、適当な服を取り、適当な袋に詰めた。
『逃げるって言ったってどこに……』
3階だから玄関を使わなきゃ外に出られない。
でも玄関には報道陣が……
『こういう時のための隣人……だろ?』
『え?』
『マスコミの不意をついてやろうぜ』
何それ。
どういう事?
まさか輝の奴……
『ほら、ついてこいよ』
私の予想通りだった。
輝はベランダに向かい、先に荷物を隣のベランダへ放り投げた。
そして自分も柵に足をかけ、私を呼んだのだった。
『こ、恐くないの?』
風の音がヒューヒュー聞こえる。
高さ的にも落ちたら無事に済まない。
『大丈夫だから早く』
『う、うん……』
おかしいな。
さっきまで自分からベランダを伝うつもりだったのに……
冷静になってみたら、めちゃめちゃ恐い事をしようとしてたみたいだ。
柵に足をかけ輝の手を取ると「よいしょ」という掛け声を出され、引き上げられた。
つか、そんなに重いか?
柵に立ってみるけど、あまりの高さに膝が笑う。
ヤバイ。
ヤバすぎるよ、これ。
3階って、こんなに空の近くだっけ?
足が動かない……
『綾香』
そんな私に気付いてか、輝が静かに話す。
『俺が綾香に会うために、どんな思いをしてきたか解っただろ?』
『……は?』
『あえて玄関を使わず、困難を乗り越えていくなんて立派だろ?』
い、意味わかんないんだけど!
玄関使えっつーの!!
『そこまで大好きな綾香を落とすなんて、絶対にしないから』
え……?
『命懸けてでも綾香を落としたりしない。 大丈夫だよ』
……馬鹿。
こんな時に何格好つけてんのよ……