♂GAME♀
『短い間でしたが…… お世話になりました』
沢山の事を学ばせてもらった職場とも、今日でお別れ。
明日から、新しい生活が始まるのだ。
『綾香。 荷物これで全部か?』
ダンボールで散らかった部屋の中から、咲耶が言った。
『うん、ありがとう。 角に置いといて』
徹夜明けのまま様子を見にきた咲耶は、そのまま雑用に……
可哀想だけど、仕方ないよね?
『あ、あと…… これ返すね』
私は鞄から封筒を取りだし、渡す。
『借りてたお金。 本当にありがとう』
『無利子で貸したんだ。 もっと深く感謝してほしいね』
ケチ。
人気ホストのくせに。
『だけど、本当にマンションを引き払うのか?』
『……うん』
あの日、輝と会えずじまいになってから、もう半年以上経つ。
まだ、輝には会えてない。
『輝からは、相変わらず電話もないんだろ?』
そう。
ろくに電話もないのだ。
『他に好きな人作ってもいいんだって』
あの日の後、輝は言った。
「もし好きな人が出来たらハッキリ言ってくれ」と……
馬鹿だな。
輝以上に好きになれる人がいるわけないのに。
『さて咲耶。 この辺で終わりにしよっか』
こんなに永い間会えなくても、
こんなに好きなのに……
『ありがとう。 咲耶のお陰で、早く荷造り出来たよ』
『どういたしまして。 少し寂しいけどね』
『また遊びにきてよ。 いつでも歓迎する』
咲耶に握手を求めるように右手を差し出す。
大きな手に、グッと力がこもる。
『……元気でな』
明日。
私はここにいない。
お互い慰め合うのも今日が最後となる。
『……いってきます』
輝との思い出の部屋。
輝を通じて出会った咲耶。
別れが辛くて、涙が一つ零れた……