♂GAME♀


『さて、初出勤しますか』

新しい住処は、ワンルームのマンション。

間取りがあの部屋と似ていたから、引っ越しを決めた。

それに……
理由はもう1つあった。


『あ、時間やばいかも』

まだ手付かずの荷物から、適当に服を出し手を通す。



今日から、名古屋での生活が始まる。

そう。
輝のいる、この街で……


新しい仕事は事務職。
しかも、念願の正社員。

このために、咲耶に借金をしてまでパソコンスクールに通った。

派遣の仕事も現場作業から事務に移った。

全て、この日のためだった。

何も無かった私が、
智志に馬鹿にされてた私が、

一人の人のために、ここまで頑張った。


あとは、この長かったゲームに、
最高のフィナーレを……



『本日からお世話になります、真白です』

新しい職場での挨拶を済ませ、午前中は会社を案内された。

予想以上に大きな会社で驚いたよ。


『ここが開発事業部よ。 ここだけの話、かなりのイケメンがいるのよ~』

そんな事を言わなそうに見える女子校社員が、こっそりと言う。

意外にミーハーなんだ。

『実は社長の息子さんなんですって! しがも独身!!』

『そ、そうなんですか』

『きちんと挨拶してね!』

嬉しそうにそう言うとドアノブに手をかける。

ゆっくり、ゆっくり開く扉から白い光が差し込む。

『……っ』

中では沢山の人達が忙しく働いていた。

皆同じ制服。
背丈もよく似ている。

でも、すぐに見つけられるよ。

『初めまして。 真白綾香です』

この自己紹介にどれほど驚く事だろう。

きっと目を見開いて、私を指差し……
そして驚きの声を上げる。



……そう思ったのに。

『思ったより、ここに来るのが早かったね』

「彼」はそう言って、得意気に笑った。

『驚かないの?』

計画では、驚きすぎて倒れちゃうって計画だったのに。

『面接にきた時点で知ってたよ。 綾香がここに来る事』

『な~んだ。 輝を驚かそうと思ったのに!』

ぷーっと頬を膨らませ、輝を見る。
そんな私を苦笑気味に見る私。

『驚いたに決まってんじゃん! なんせ、フラれたと思ったからね』

きっと輝の中では、あの日に私達は自然消滅したんだろう。

だから連絡も出来なかったんだろうな。

『逃がすわけないじゃん! 私が輝を!』

そんな輝が面白くて、私は満面の笑みを見せた。



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