♂GAME♀

朝は遅くに起きて、求人広告を漁り、
それに飽きたらファッション誌。

お昼をコンビニで済ませ、また朝の繰り返し。


そんな私が、あの中林で正社員になれるなんて……
何だか夢みたい。

気づいたら全部が夢で、咲耶がそれを馬鹿にするように笑う。

そっちの方が、やけに現実的だ……


『綾香』

まだ呆然とする私の腕を引き、抱き寄せる輝。

『俺、引っ越そうかな』

輝は部屋を見渡し、微かに笑う。

『また綾香の隣に住みたいよ』

思ってもみなかった発言。
名古屋に来る事すら反対されると思ったのに……

『俺の部署に挨拶きた時も野郎共が騒いでたしさ』

さらさらの髪が頬をくすぐる。
懐かしい甘い香りだ。

『……騒いでた?』

『可愛いんだってよ? 俺の女だって大声で言ってやりたかった』

男性のみの部署だと、何割か増して見えるのかしら。

『綾香のアパートは、隣空いてる?』

『あ、空いてないよ! 隣は若い男の人が住んでる』

『え~、マジで?』

『うん。 朝ちらって見たけどカッコイイ感じだったよ』

意地悪に見えるように横目で見る。
そんな私に輝は、不安を隠せないようだった。

『ちょ…… 隣人を好きになるとかないよね?』

目を瞬かせる様子に、つい笑いが込み上げる。

『わかんないよ~? 私にその気がなくても、いきなりキスされたりするかもよ?』

『は~?』

ね?
誰かさんみたいに!

そんでデリホスのチラシ渡されたりとか。

『ホント勘弁してよ~。 連絡しなかった事怒ってんの?』

『別に~?』

今まで受話器ごしだったせいか、まだフワフワと現実感がない。

表情が見える距離にいられる事が、こんなに嬉しいなんて。

やっぱ輝の隣っていいな……

『うちの隣人さんさ…… 正直言って本当にいい男なの。 あんなの絶対に好きになる』

『綾香ちゃ~ん!!』

『チャラく見えて、実際はそんな事ないし…… 意地悪だけど実は優しいし』

今思えば、最初から勝ち目のないゲームだった。
私が輝に勝てるわけがなかったんだ。

『だから、これからも好きでいていいかな……? 隣人さん』

『……え……?』

口をあんぐりと開けたまま、固まる輝。
そんな輝の耳元に唇を寄せる。

『お隣に越してきました、真白綾香です。 よろしくお願いします』

囁くように言ったら、バッと耳を隠された。
指の隙間から赤くなった耳が見える。

『やった~! ドッキリ成功!』

『ま、マジかよ~! 二段仕込みのサプライズとかわっかんね~!!』

茹でタコのように真っ赤になって、今にも泣きそうな輝。

今まで頑張ってきた事は、今のこの瞬間のためにあったのだ。


初めてあった瞬間から、このゲームは始まった。

追いかけても追いかけても、掴めない。
答えが出ない。

そんな時もあった……


『ったく…… 綾香には、敵わんわ』

でも、今ようやく掴んだ。
答えも……貴方も……

『これからも、よろしくね?』

ゲームの結末は最高にHappyYEnd。

それは、これからも続く……よね?


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