♂GAME♀
両手に袋。
小脇にお茶のペットボトル。
しかも、2リットル。

そして輝も同じ状態。

『もー、助かるわぁ』

嬉しそうな大家さん。
それはいいんだけど……

『おばちゃん、買い過ぎ〜。 重いって』

そうそう。
うちらがいるからって、大分買い過ぎてる。

あの狭いワンルームに全部入るの?


『おっ 輝ちゃ〜ん。 お手伝いかい?』

けだるそうに商店街を歩く輝に、魚屋らしきおじさんが声を掛けた。

『こんな昼間から手伝いなんざ、輝ちゃんのモテ期も終わったかなぁ〜』

勝ち誇ったように笑うと、輝の頬を突いてみせる。

どんだけ仲良しなんだよ。
まだ引っ越してきて数日しか経ってないのに。

私なんか、このおじさんの声、初めて聞いたし。

『んじゃ、おっちゃんが指名して〜。 サービスするから〜』
『だははっ そんな趣味ないわぁ。 指名の代わりに好きなの選んでけよー』
『マジ!? おっちゃん太っ腹!』

……こいつ、「おばちゃんと行くと安い」とか言ってなかった?

『あ、こら、鯛(タイ)見んな! 500円くらいのにしとけ。 な?』
『え〜。 細っ腹……』

大家さんいなくても十分じゃん。
自分で魚、手に入れてんじゃん。

『お、輝くん。 買い出しかい?』

あーあ。
隣の八百屋まで出てきちゃったよ。

『こーんな昼間に買い出しなんて…… さては、指名が無いな?』
『皆して言うなって! 今日は、たまたまだっつの。 たまたま』

道を歩けば誰もが振り返る。
口を開けば誰もが笑う。

老若男女問わず……

突然。
輝が遠くに感じた。
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