不器用なシタゴコロ
「…月、見て?」
「え?」
とーやクンの言葉に。
小さく揺れてるブランコの前にある柵代わりの棒に、少しだけ体重を預けて空を見上げると。
濃紺の空に白く光る月が見えた。
「月を見てどう感じるか、なんて10人に聞けば10通りの感じ方がある。…音楽もそう。所詮音符と“あいうえお”の羅列でしかない」
月を見上げていたとーやクンは。
自嘲するかのように口元を緩ませると、また言葉を続けた。
「その“羅列”にどれだけ作り手の“気持ち”をのせられるか。そこが俺たちの腕なんだよな」
…ギシッ。
ブランコが、揺れた。
月を見上げていたとーやクンの視線と。
私の視線とが交わる。
「…ゆずサン…。こっち来て…?」
真っ直ぐ私を射ぬく強い視線。
その視線に引き寄せられるように。
寄りかかっていた柵から体を離した。