1970年の亡霊
市谷
『昨日、シリアとイスラエル国境付近にあるゴラン高原の山岳地帯で、PKO活動中の自衛隊物資輸送トラックが、反政府ゲリラからと思われる攻撃を受け、多数の死傷者を出しました。イラク派遣以来、日本の自衛隊が攻撃を受けて被害を出したのは今回が初めてであり、又、つい最近はホルムズ海峡周辺で、日本の船舶が海賊船やゲリラ船などからの攻撃を受けていた事実を重く受け止めた防衛大臣は、ゴラン高原に派遣されている自衛隊の装備及びその使用、海上自衛隊の増援等、海外派遣法の抜本的改正の必要があると発言をし……』

「今更何を言ってやがる……」

 園田二尉は、食堂のテレビで流れているテロ報道を観ながら、誰にもぶつける事の出来ない怒りを両の拳に込めた。

 画面に流れるテロップには、自分と同期の隊員の名前が流れた。

 園田二尉は席を立ち、食堂を足早に出た。

 彼が向かった先は、隊の中で唯一心を許している鹿島三佐の元であった。

 鹿島三佐の執務室を訪れると、既に能勢三尉が顔を真っ赤にさせ、口角泡を飛ばす勢いで噛み付いていた。

「これまで何事も無かった、だから大丈夫だなどと考えていた政府はただの平和ボケとしか思えません。政情不安定な国へPKO派遣するならば、それなりの装備を持って行くべきだったんです。小銃と機関銃だけの貧弱な装備しか持たされず、ロケットランチャーや迫撃砲まで装備したゲリラ組織相手に、どう身を守れと言うのですか!こうして犠牲者が出てから、派遣特措法を作るとか言われましても納得出来ません!イラクやアフガンで我々が無事でいられたのは、他の国の軍隊に守られていたからです。自分自身で身を守れない軍隊なんて……」

 能勢三尉の言葉は、激情の余り最後には涙声になっていた。

 鹿島三佐はじっと腕を組んだまま、瞑目していた。




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