1970年の亡霊
 治安に直接関わる警察庁長官は、断固自衛隊の治安維持出動は避けるべきだとの意見を述べた。

「救助活動でありますとか、医療活動等に於ける出動で充分だと思います。関東各県のみならず、北信越の各県警及び東北、東海地区の機動隊を動員すれば、首都圏の治安維持は保持出来ます」

「宜しいですか、これだけ組織的な破壊活動を行う相手は、これまでの極左組織やカルト宗教団体には見られなかった。使用された爆薬は、専門家の調べによると軍隊、それも特殊部隊が使用している物と同等の威力があると言っています。相手はこれ以上の武装を持った集団かも知れません」

 防衛大臣から意見を述べよと促された統合幕僚長は、言外に警察では無理だという含みを持たせた。

「我々は、60年安保も連合赤軍事件も、更に言えば十五年前のカルト宗教事件にも対応して来たんだ。今回も我々だけで充分対応出来る」

「お言葉ですが、それらは全て過去の事であって、もはや、こんにちに於けるグローバルなテロ活動には対応出来ないものと、私達は認識しています。その証拠に、先年より自衛隊には対テロ特殊部隊が存在しています」

「私は首都東京を預かる首長として、自衛隊の治安出動を要請したい。阪神淡路大震災の時の失敗を東京で犯す愚は断固避けなければならない」

「あの時は地震という自然災害が相手で、」

「ならば尚更じゃないか。今度はテロなんだぞ!」

 意見はそれぞれの立場でしか考えたものではなく、結局は何処まで行っても平行線を辿った。

 万年野党だった現政府は、こういった危機管理に際して主導的行動を取れないまま、茫然自失となっていた。



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