1970年の亡霊
 加藤は理由も無く苛立っていた。

 いや、理由は自分でも判っていた。

 難事件の捜査本部に居ながら、直接捜査に関われないもどかしさから来ているものだと。

 加藤の目から見ると、今回の事件は、首無し死体の被害者を特定する為の捜査人員が少なさ過ぎるように思えた。

 届出のある行方不明者との照会にしても、範囲を千葉県内ばかりに重点を置いているように感じられるのだ。

 普通、こういった事件の場合、もっと捜査範囲を広げ、一つ一つ虱潰しにやって行くものだ。

 その為には、捜査員の主力をそれに充てるのが常套手段であり、捜査の基本とも言える。

 先ず身許の特定、そして、そこから背後関係を絞るというやり方で行くべきなのに、死体発見現場周辺に於ける不審者や、死体運搬に使われたのではないかと思われる車両の特定にばかりに囚われている節がある。

 聴き込み捜査の段階で、確かに幾つかの不審車両目撃情報はあった。

 そして、それらの情報を元に高速道路のETCや、各幹線道路の防犯カメラの分析にばかり追われ、結果、ここまでは何の成果も上がっていない。

 加藤は、死体が陸上から棄てられたとする意見とは別に、海上から棄てられたのではないかという疑念を抱いていた。



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