1970年の亡霊
 当然、捜査本部でもそういった可能性を考えるべきである。

 にも拘らず、海上に於ける不審船捜査に対し、何一つとして手を打っていない。

 加藤は、佐多の事件を思い出していた。

 捜査本部の思考が硬直してしまうと、狭くなった視野の為に、幾つかの盲点を見落としてしまうのだ。

 自分もかつてそういった中で、盲目の捜査員であっただけに、尚更、現在の捜査本部が歯痒く思えて来るのである。

 この事を本部の捜査員達に伝えようにも、今の加藤は直接進言出来る立場ではない。

 それに、本部の連中は皆加藤を避けていた。

 ただひたすら、上がって来た捜査資料を纏めるだけの事務屋に成り下がってしまった事を、加藤は忸怩たる思いで唇を噛むしかなかったのだ。

 こんな事なら田舎の駐在所にでも飛ばされていた方がマシだとさえ思った。

 デスクのパソコンの画面を眺めながら、鬱屈した気持ちで居た時、ふとあの顔が浮かんだ。

 そういやあ、あいつは今頃どうしてんだろう……

 キャリア様の冷や飯もきついって聞くが、あいつの事だから俺様のようにはめげてはいないだろうが……

 ズボンのポケットからケータイを取り出し、加藤は久し振りにメールを打った。

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