1970年の亡霊
 三山からの報告を元に、病院内に急遽設置された会議室で、垣崎剛史が供述した内容を検討する事になった。

 元は旧館二階のナースセンターだったスペースに机を並べ、警視庁とネット回線を繋いだ。

 それぞれの机にパソコンをセットしている三山を手伝いながら、加藤は河津の姿が見えない事に気が付いた。

 加藤は三山に気付かれないように、捜査官の一人に近付き、

「河津さんは?」

 と小声で聞いた。

「連絡が取れないんです」

「どういう事だ?」

「多分、捜査だとは思いますが……」

 三山が危惧していた言葉を思い出した。あの時は話半分で聞いていたが、加藤の気持ちの中に、少しばかり灰色の雲が掛かった。

 インテリさんほど思い詰めると、とんでもねえ事やりかねねえからな……

 段々と加藤は気が気ではなくなって来た。三山が自分に河津を注意していてくれと言った意味を、加藤は彼なりの意味で捉えていた。

 加藤のそんな思いを知ってか知らずか、

「加藤さん、柄にもなくぼーとしちゃってどうしたんです?」

 と三山が声を掛けて来た。

「あ、ああ……ここんと寝不足だからな」

 そうこうしているうちに、会議が始まった。

 三山が垣崎から聴き取った話を元に、細部に亘って分析をした報告書が各自に回された。本庁からは手代木局長が出席し、早速討議が始まった。最初に三山が、内容報告と分析の結果を説明した。
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