1970年の亡霊
 集中治療室の前には、所轄署の刑事達が廊下を占拠していた。

 葛西東署捜査一課の瀧本係長が、ICU(集中治療室)から出て来た医師へ駆け寄った。

「容態はどうなんですか?話は聞けそうですか?」

「危険な状態は脱しましたが、まだ予断は許せません。それに、意識もまだはっきりと回復してませんから、暫くは面会謝絶です」

「そうですか……」

 瀧本は部下達に向って首を振った。

 刑事達の輪から少し離れた位置でその光景を見ていた記者が、ICUの前を離れた瀧本に近付いて行った。

「銃撃された三山警視の容態はどうなんです?」

「今の時点でブンヤに話す事は何も無いよ」

 小煩い蝿から逃れるかのように、瀧本は記者を押し退けた。

 収穫は無しか……

 そう思った記者の目が、ロビーに現れた一人の男を視界に入れた。

 しっかりと男の姿を確認すると、患者や看護師達を掻き分け、記者は男の前へ進み出た。

「加藤さん、今度はこちらへ異動ですか?」

「……」

「初めて見るような顔しないで下さいよ。僕ですよ、新日報の池谷です」

「判っているよ。ある事無い事書く奴の顔を忘れる程、耄碌はしてねえ」

「あっちに用なんですね?」

 加藤の辛辣な皮肉を聞き流し、池谷はICUを指差した。


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