―you―
「千尋さん」
「どうした」
「俺は、どうしたら良いんですか?」
「何を」
「既婚者と繋がるなんて」
「君のやったことは、」
「不倫?」
「そう」
「不倫か…」
「悪いと思っているのか?」
「俺が悪いの?」
「冗談だよ」


 この嘘つき。

「誰が?」
「千尋さん」
 …?

 え?
 跳ね起きた俺をにっこりと笑いながらあなたは見ていた。自分の子守歌で眠っていたのか、俺は。
「いつから、」
 ぐ、と唾を飲み込む。
「いたんですか?」
「私は忍者だ」
「泥棒の間違いですね、嘘つきだから」
「泥棒か…」
 あなたは俺の髪を触る。その手が耳、首筋、頬、唇と動く。顎で止まった。
「それだけの度胸はないよ」
「何を盗む度胸?」
「言わせるのか?」
 言って欲しい。何を盗むんですか。そんな微笑でごまかさないで下さい。手を離さないで。
「…苦しい」
「吐くのか?」
「違う」
 この解らず屋。俺はベッドに倒れて、布団を被った。
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