―you―
「優?」
「千尋のバカ」
「馬鹿とは心外だな」
「バカ」
 知ってますよ。あなたが優秀な大学を卒業してることは。
 苦しいんだ。心細くて、寂しくて、虚しくて。
「…どうして結婚してるんですか?」
「まだ正式にはしていないよ。嫉妬しているのか?」
 あなたは本当に馬鹿だ。
「俺の方が…千尋さんのこと想ってるのに」
「奈緒の飯は旨い」
「…」
 勘忍袋の緒は切れた。
「出てけ!」
「え?」
「この嘘つき!泥棒!変態!エロ親父!」
「それは酷くないか?」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」
「優」
「バカバカバカバカ」
「優!」
 怒りたいのに胸が詰まって息が苦しくて涙が出る。あなたのしっかりした体は、叩いても揺すっても無意味だ。バカ千尋。俺はこんなにもあなたが好き。
「…バカ」
「優」
 あなたが俺の腕を抑えるから、俺は涙を拭けない。あなたの顔が涙の向こうで歪むんだ。俺の気持ちを否定するように。



 だから今。
 感じているあなたの体温がとても心地良い。俺の名前を呼ぶ声が心地良い。触れる息が心地良い。
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