―you―
8 その声でその一言であたしを縛らないで

 鍵が開いていた。
 ドアを開けて中に入ると、見慣れた靴があった。反り返りが良くて、クッション性があって、とっても歩き易いの。確かそんなことを言っていた。
 それと、いつものスニーカーと、履き込まれた男物の革靴。

「…」
 無言のティーパーティー。紅茶とシナモンの匂いが漂っていた。
 参加者は、君と奈緒と、確か寺田とかいう男。

「…誰だあんた」
 私に一早く気付いたのは寺田だった。その声に君と奈緒が顔を上げる。
「「千尋」さん」
「…あんたが」
 寺田は立ち上がった。私に掴みかかろうとする寺田を君が止める。
「優!」
「止めて下さい…悪いのは全部俺…」
 ふん、と脇で聞いていた奈緒が鼻を鳴らす。
「どうして…奈緒はここにいるんだ?」
「どうして?自分こそどうしてよ。千尋」



 そんなこと言ったって、もう全部を知っているんだろう?君は奈緒と寺田に洗いざらい話してしまったんだろう?
私はどうしたらいい。
「お茶を貰っていいかな」
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