―you―
 紅茶を無言のまま飲み、冷めているが味のしっかりした奈緒のアップルパイを食べた。正直、美味しい。もとから君のところへ持ってくるつもりで作ったのだろうか。どんな気持ちで作ったのだろうか。

「…こうしましょう」
 君は小さな声で提案した。
「俺はここを引っ越します。もう、千尋さんにも奈緒さんにも会いません」
 声は震えている。その細い肩を、しっかりと抱き締めたい。
「でも優ちゃん、劇団は続けるんでしょう?千尋も私も、あなたがどこにいるか知ってるのよ?」
「あんた、優に辞めろって言うのか?」
 奈緒と寺田が睨み合う。奈緒は不適に笑った。
「あなたのお嫁さんにでもすればいいじゃない」
 私は奈緒の横顔を見て、それから寺田の顔を見た。満更でもなさそうな顔だ。
「優ちゃんはあなたに助けを求めた訳だし」
「……」
 優を虐めて楽しいか、と奈緒に言いたくなる。けれども、理に適った感情かもしれない。

「…別れるか」

 私は奈緒に向けて呟いた。
「嫌だろう、こんな男は」
「…あんた正気か?」
 寺田に睨まれた。
「子供孕ませといて、そんな無責任なこと良く言えるな」
「もちろん金銭的な責任は…」
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