―you―


『…繰り返します。女優の天野優さんが映画の撮影中に倒れ、都内の病院に運ばれて、流産をしたと事務所より発表がありました。病院前と中継が繋がっています。佐藤さん』
『はい、こちら、天野優さんの入院している病院の前には次々とマスコミが集まり、騒然としています。先ほど、病院に夫で舞台役者の寺田聡輔さんが入って行きました。天野さんは妊娠第十九週で、妊婦としても女優業はできる、妊婦にしかできない演技があるはずだ、と意欲的に仕事をされていました。事務所は、天野さんとよく話し合った上で体調・体力を考慮したスケジュールを組んであり、決して無理な仕事はさせていない。天野さんの母親の佐知子さん、夫の寺田聡輔さん、主治医でバースクリニック院長の前山望産婦人科医師の全面的な協力もあり、精神的なストレスもあまりなかったはずだ。としています』

 私は言葉を失った。仕事柄、どのような場合に流産するのかはある程度知っている。自然流産の場合の原因は、胎盤の異常、母体の性器疾患や下腹痛を伴う疾患、血液型不適合、過激な運動、精神的刺激、人工流産の反復など。
 彼女に何が起こったのか。私と別れた後、彼女は何を経験したのか。
 知ろうとするにも、彼女はもう遠い人間になってしまった。
「優ちゃん、大丈夫かしらね」
 奈緒が言った。声は優しいがその表情を見ることができない。
「母体の保護が先決だろうから、心配無いんじゃないか」
 私は彼女の無事を願いつつ、テレビの電源を切った。
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