―you―

 夜、携帯電話が鳴った。公衆電話。私は奈緒と娘を起こさないようにそっと部屋を出た。

「はい」
「夜分申し訳ない。十河千尋さん、ですね」
「…誰だ。先に名乗るものだろう」
「…寺田」
「寺田?」
「家を片付けていたら、優の古いケイタイが出てきた…あの頃使っていたヤツだよ。消しただろうと思っていたのに、あんたの番号が残っていた。掛けてみたら、ほら、あんたが出た」
「…何の用だ」
「優のこと、知っているか?」
「流産したって」
「そうだよ。あんたに一つ、教えておきたいことがある」
「何だ」
「何だって、別に金がどうこうって訳じゃねえ。あんたに重石を持ってもらいたいんだ。格別に重いヤツ」








 私は、彼女の過去の一つの罪を聞いた。私が残したもののための、罪を。









 彼女のあの細い体には大きすぎる負担だったんだ。
「…彼女に会っても良いだろうか」
「忘れたのか?優が、身を切るような声で言ったこと」
「でも、謝りたい。一言、たった一言でいいんだ」
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