Impression~心の声
心にもない言葉。〝楽しかった〟これが私から彼への最後の餞の言葉だった。二度と会うことのない人への。
「よかった、楽しんでもらえて、もう一軒とか行く時間はない?僕はもう少し香織ちゃんと一緒にいたいけど。」
「久しぶりに都内とか出てきちゃったし、なんだか疲れちゃったから、今日は帰る事にする。」
「そっか、無理言っちゃってごめんね。また遊んでくれるかな?」
 聞き分けのいい男だった、このときのシンジの聞き分けのよさに私は少しほっとした。そして私はそれに答えた。
「うん。もちろん。」
 心にもない言葉。また私は嘘をついた・・・。
 どうでもいい人間に私は嘘を付いた・・・。
 帰りの電車は人が溢れていた。私はipodをポケットから取り出しイヤホンを耳に差し込んだ。誰の声も聞きたくなかった。目を閉じて最寄の駅に着くのをまった。人の出入りが激しくて、波に吞まれそうだった。電車を降りると肌寒い風が身にしみた。
 私はいったい何をしているのだろう・・・。一番解らないのは他でもない自分自身だった。
 家に着いた私は、お風呂に入るわけでもなく、着替えるわけでもなく、すぐにベッドに倒れ込んだ。何故だろう、自分の部屋がどんな間取より広く感じ、突然私を寂しさが襲った。耐え難い孤独に襲われる。誰かに声を掛けて欲しかった。肩をそっと抱きしめて欲しかった。壊れそうだった。その瞬間に二度と思い出したくない言葉が、私の全てを飲み込んでいった。〝怖い〟バカ〟〝いい気になっていたんじないか〟あの男の笑う顔。
そしてその声までも、何時までも耳について離れなかった。私は耳をふさいだ。私が私であることが、酷く残酷な現実だった。暗闇は私のすぐ近くにいた。いくら叫んでも逃げまどおうとも、消えることは無い闇が。もう、闇に消されてしまいたかった。
私は立ち上がりパソコンの電源を入れた。何かに導かれるように。そしてオペレーターのログイン画面を開いた。私は無意識に、ログイン開始のマークをクリックした。待機画面に自分の姿が映し出された。私は帽子を取り眼鏡を外した。何時になく私の気持ちは落ち込んでいた。何に対してとかではなく、自分自身に・・・。
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