Impression~心の声
 そういって私は自分のケータイ番号とメールのアドレスを打ち込んだ。
いさむ「わかった。水曜日の7時だね。519便で、後で僕のほうからメールをするよ。」
香織 「うん。」
 会話は途切れてしまった。とたんに私はなぜか少し緊張した。ついに勇に会えるということに。
香織 「今日は何をしていたの?」
いさむ「もちろんガラスを作っていたよ。」
香織 「どんな物を作ったの?」
いさむ「ペアのグラスを作ったよ。」
香織 「どんな色?」
いさむ「ブルー。この時期は涼しげな色の注文が多いんだ。」
 私は涼しげなブルーのグラスの想像をした。そんなグラスで透明な炭酸飲料を飲んだら美味しいのだろうな。
香織 「そのグラスで一緒にサイダーを飲もう。」
 私は勇を一緒にと誘った。
いさむ「いいよ。」
 サイダーなんて名前をきいて、だけど勇は笑ったりもせずにちゃんとそれに答えてくれた。
香織 「一緒に海をみよ。」
いさむ「いいよ。」
香織 「沢山お話をしよ。」
いさむ「もちろん。」
 顔の見えない勇の声はとても澄んでいた。どこか悲しげで、だけど優しさに満ちた声。
香織「私、グリーンのワンピースを着ていくね。ちゃんと見つけてくれる?」
いさむ「わかった。かならず見つけるよ。」
香織 「勇君の目印は?」
いさむ「そうだな、じゃぁオレンジのキャップをかぶって行く。」
香織 「わかった。早く会いたいよ。」
いさむ「びっくりさせちゃったらごめんね。」
 勇はとても大きな心配事を抱えているようだった。だけどその時の私は大切なことに気付いてはいなかった。
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