亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
21.そんな目で、見ないで















広がるのは闇ばかり。


空虚な硝子玉が映すのは闇ばかり。


耳にするのは物言わぬ闇ばかり。


垂れた指が触れるのは闇ばかり。








静かだ。









ここは、暑くも寒くも無い。

温度というものが、無い。



この場所の空気がそうなのか。

それとも。



ただ単に、己が何も感じていないだけなのか。



無い瞼をそっと開けば、そこには何も無い漆黒しか存在していないのだが。


その闇の中に孤立する蜃気楼の様な、手を伸ばしても掴めない『世界』をぼんやりと眺める。




霧状の濁った空気の中に、半分に欠けた、光る半円が見えた。


青白い輝きを放つそれは、時の経過と共に弧を描きながら、次第に上昇していくのが見える。



それは、見慣れた風景。何の変哲も無い、ただの半円。

闇の中で威風堂々と構え、王座に居座る…夜の帝王。………太陽に怯える、ただの、月。

だがしかし。




この時、この一瞬見えるあの半月は。





この夜だけは、どうやら特別な扱いを受けている様だ。

この夜だけは、理不尽な全知全能の神が、あの月を介して己の慈しむ箱庭を見下ろしているらしい。




あの神は、実に頭のおかしい神だ。


箱庭を愛でていると思えば。

少しでも汚れてしまえば、あっさりと壊そうとする。

箱庭の中の命にとっては、なんと理不尽極まりない神なことか。



だがそれも、自分には関係ない。

あの箱庭が砕けようが、消えようが、知ったことではない。










『―――…貴方様も、あの神と同類なのでは?』











微笑を添えた呟き声。生意気に言葉を話すその者はいつからか……そこにいる。




ああ、煩わしい。


……のくせに、言葉を話すなど。




同類だと?笑わせるな。















“―――予ハ、奴トハ、違ウ”


厳かな響きに満ちた、頭に響く声を呟けば、その者は生意気にも笑みを漏らした。
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