亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――極めて謎。その存在自体が謎、と聞いていた魔の者。
外見やその醸し出す空気やオーラから既に違うという生き物だが………いざ目の前にしてみると、その噂通り…否、それ以上の不思議な生き物であると実感する。
百聞は一見にしかず…とは、よく言ったものだ。
…よく分からない流れで、半ば勢いで城内に転がり込んだ一行。
打ち付けた身体の痛みを堪えながら冷たい大理石の床の上で起き上がっていたレト達だったが………その場にいる全員が立つことも忘れて釘付けになっていたのは…紛れも無い、謎だらけの魔の者だった。
暗がりで佇む魔の者は、動かぬレト達を、なんとも端正な顔立ちに微笑を浮かべて見下ろしていた。
…まず、その容姿で一番目を引いたのは…ほとんど引きずっている状態の、床に垂れた恐ろしく長い緑の髪。
軽く五メートル以上の長さを持つであろう緑の髪は、明かりに照らされている訳でも無いのに絹の如き光沢を放っていた。
すらりとした身体は細く、手足は華奢で、風変わりな衣服から覗く透き通る様な色白の肌には、美しい何かの模様なのか、漆黒の細かい入れ墨が所狭しと刻まれていた。
…見た目は十代後半から二十代前半の若者。性別は…見ただけでは不明である。
その長身故に男性にも見えるが、女の様に肩幅は狭いしくびれもある。…では女性か、と言われても、女体特有の胸の膨らみは皆無。
加えてその中性的な顔立ちと、高いとも低いとも言えない声音。…男にも、女にも見える。
…見れば見るほど不可思議な存在であるこの魔の者は、一同の集中する視線を浴びながら……その場で軽く会釈してきた。
「………どうも初めまして皆様方。私は、ノアに御座います。……存じているでしょうけど」