傷の行方
彼の声
私が初めて


ビデオに映っている


アーティストに会ったのは



コンサートの時だった



事務所に手紙を



送っていたけれど



会ったことはなかった



手紙には


手首を切ったことや


その理由を綴っていた



彼はファンレターを


必ず読むと言われていたから



何通も書いていた



コンサート当日


私は隠せない手首を


そのままに一番端の



席にいて


見た瞬間に涙がでた



彼は「自分の為に生きろ」


という歌を歌っていた



その時彼が


端の花道に歩いてきた



私の横に立って


歌いながら



客席に手を差しのべ


周りは彼の手を


触ろうと乗りだした



私も手をあげてみた



すると沢山の手の中で



私の手を選び


手首をもってキスをした



その歌の最中に


泣きながら彼は



「生きろ!」と叫んだ



私は初めて


人目を気にせずに



泣いた



すべて偶然でも



その時の私にとって



本当は一番言って欲しかった



言葉だった
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