闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 彼に柔らかい声を向けられたのはこれが最初で最後。
 何のことだかわからなかったが、ランガードは命拾いをした。
 そしてこの瞬間、ランガードは彼と共に居ることを選んでいた。
 強い者に惹かれるのは、雛の刷り込み現象同様に自然なことであった。
 「さあ、行くがよい。お前達はお前達の道を行け」
 道を違えたシャードは半身だけ振り返り、言い放った。
 「お頭……」
 ついていく親鳥を失うなど、考えたこともなかった。
 それほどに死神としてのシャードは圧倒的に強く、揺らがない存在だったのだ。
 だからこそ、変化してしまった男に感じるのは絶望と憤り。
 ランガードは立ち上がり、船内へと足を進めた。
 シャードと目は合わせない。
 出会ってから初めて、彼が自身の一挙手一投足を見ているというのに。
 シャードの横を摺り抜けた。
 そのまま二歩進み、立ち止まる。
 振り向かない。裏切り者の顔など二度と見たくない。
 「……見損ないましたよ。お頭となら夢が見れると――何処までも駆けて行けると、そう思っていたのに」
 惚れ込み、命を捧げると誓った。その誓いは今、相手によって反故(ホゴ)にされた。
 船を捨て、鎌を捨てた男に用は無い。
 「消えちまってよ、負け犬」
 そう言うことしか出来なかった。
 そしてそれが、頭領の決定に従うと誓って生きてきたランガードが己の誓いを貫いた結果でも、あったのだ……――。

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