闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 ――おれ達から頭領を奪うだけでは飽き足らず、シャードという男までもを奪うつもりか!
 嫉妬なのか嫌悪なのか。
 直視もしたくない程の感情が心の内を好き勝手に暴れ回る。
 「一緒に、行こうよ。トロルに」
 出てきた名前は、つい最近壊滅させたばかりの小さな村。
 「ゼルだって、一度戻るでしょ? だから、一緒に」
 ゼルと呼ばれた男は面食らったような顔をしていたが、少女の問いに曖昧ながらも頷く。
 「つかエナ。オマエ来る気なンかよ」
 「うん。そう決めた」
 勝手に解散を決めたシャードを、更に勝手な少女が、変化を促し動かしていく。
 屈辱以外の何物でもない。
 「えー! 野郎と旅なんて許せないー! ジストさんも行くー!」
 「マジうぜェな、アンタ」
 脳天気な会話が潮風に攫(サラ)われていく。風は留まることなく、そして二度とこの場所に戻ることはない。
 その潮風のように少女達は自身が敬愛していた男を攫っていく。何の躊躇いもなく、いとも簡単に。
 「ま、シャードも考えたいこと、あるだろうし。あたしも用事、あるから。三日後の正午に港町、ユーノで」
 ――そして、二度と戻らない。
 変化は悲しいほど唐突に訪れ、一度変化が始まってしまえばそれは何者であっても――例え当事者本人であっても止められない。
 「……ああ」
 聞き慣れた低い声は微かに丸みを帯びていた。昔一度だけ聞いた声が脳裏を掠める。
 孤児が集められる施設を若くして飛び出し喧嘩ばかりに明け暮れていた頃、この世界に怖いものなど何一つ無いと思っていた。
 ――この人を見るまでは。
 シャードに喧嘩を吹っ掛けたとき、彼の体はまだランガード自身よりも小さかった。後に聞いた話では、そのときシャードは十六歳だったという。
 色白で華奢だったシャードはまるで女の子のようで。
 だが、彼は強かった。あっと言う間もなく一撃で地面に沈められ、そしてその目を見たときに凍りついた。
 何処までも深い闇を映す漆黒の双眸に恐怖を覚え、震えることしか出来ず。
 殺される、と思った。
 だがそんなランガードに彼は言った。
 「そばかすが、あるな」
 そして薄く微笑んだかと思うとそのまま身を翻したのである。


< 99 / 115 >

この作品をシェア

pagetop