闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「あんた……」
 暗がりの中見えるのは金の髪に蒼灰色の瞳を持つ荒削りな顔をした男。
 夕刻に見た男だ。
 エナは視線を彼の肩から腕の先へと落としていく。
 口元を覆っていたのは彼の右手……義手だったのだ。
 「コレ、取り戻しにきたんだ?」
 盗まれたか奪われたかした妖刀を取り戻す為に、この男もまた船へと潜入していたのだ。
 「……なんでそのこと……?」
 訝しげに眉を顰める男にエナは肩を竦めて見せた。
 「街のど真ん中で派手に喧嘩してたじゃん」
 あれを見られていたのか、と男は小さく言葉を零した。
 「まあ、わかってるなら話は早ェ。それを返してくんねェか?」
 男は手の平を上に向けてエナに差し出した。
 途端、エナは顔を膨らませる。
 「ちょっと何? 漁夫の利だなんて、都合、良すぎない?」
 彼から隠すように妖刀を後ろ手に持ち、空いた手で男の掌を叩いた。
 「こっちは大枚はたいて忍びこんでんだから、それなりの何か、ちょうだいよ」
 「は?」
 男はエナが何を言わんとしているかを理解しかねているようだった。だからエナは言葉を繋ぐ。
 「だから、これが欲しいなら何か寄越せってゆってんの」
 「それがオレのもんだってことは、知ってんだろ? だったら返してくれても……」
 エナは額に手をあててかぶりを振った。溜め息までそこに添える。
 「あたしは泥棒で、この【影】から盗んでるだけなわけ。元はあんたの物でも、あたしに関係あるかって言ってんの」
 エナの言い分に唖然としている男にエナはにっこりと笑いかけた。
 「あのね」
 エナは妖刀を彼の眼前に突き出した。
 明らかに体躯が違う男だ。
 力で真っ向勝負をしたところで敵うわけがない。
 「世の中」
 エナは妖刀を天井高く前方に放った。
 「おい…!」
 男がその妖刀を目で追っている隙に横からすり抜け、落ちてきた妖刀を掴む。
 「甘くないのよ?」
 にやりと笑い、エナはそのまま駆け出した。
 音だとか何だとかはもう気にしていられない。全速力で来た道を戻り、階段を駆け登る。
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