闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「ね、何で殺したの」
 「ん? 何が?」
 きょとんと聞き返すジストは本当に質問の意味がわかっていないようで、エナは憮然とした顔になる。
 「さっきの。助けてくれたこと、感謝するけど。なにも殺すこと、なかった」
 ジストに撃たれた男は程なくして絶命した。脳味噌が吹っ飛んだのだから手の施しようなどなかった。
 「なに、気にしてるの? エナちゃんが気にすることないよ。あれはジストさんがやったことで、エナちゃんは悪くな……」
 「そうじゃなくって!」
 思わず言葉尻を奪っていた。
 殺すのが罪だというのならば、それを容認するのも、また罪だ。手にかけたジストだけが悪いというのは間違っているし、そもそも責任の所在を明らかにしたいわけではない。
 「……殺さないで」
 エナは呟き、そしてジストを仰ぎ見た。
 「あんたとあたしは、今、仲間だ。ジストが奪った命は、あたしにも責任、ある。飼い犬の粗相は飼い主の粗相でもあるってゆーか……。とにかくね、罪、逐一背負っていけるほど、あたし、強くない。だから殺さないで」
 飼い犬とは随分な例えであるが、彼女はジストが奪う命にまで責任を感じてしまうのだ。
 だが、ジストには伝わらなかったらしく、彼は眉を怪訝そうに上げた。
 「? なにもエナちゃんが背負う必要は無いじゃないか」
 小さく溜め息を吐いたエナは首を横に振る。
 「背負う必要が有るとか無いとか、そんな意志とは関係なく、抱えちゃうの」
 それはもう理屈ではないのだと告げると、彼は「へぇ、そりゃ大変だ」と苦笑を漏らして前方を指差した。
 「じゃあ、あれ。どうしようか? 殺しちゃ駄目なんだよね?」
 ジストの指の先には男たち。その数、五十を超える。エナ達の姿に気付いたようで、号令が飛び一斉に駆けてくる。
 「決まってんでしょ」
 エナは唇を片方だけ引き上げて笑みを刻む。
 「叩きのめす」
 三節棍を手に走り出す彼女に、エナの荷物を持たされているジストが「えー、めんどくさぁい」と声をあげた。彼からしてみれば殺さないことの方が難しいのかもしれないが、こちらだって報酬を払うのだ。寝覚めの悪い思いをするのを避けたいと言ったところで一体何が悪いというのだろう。
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