闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「ほんと、その性格、長生き出来ないよ?」
 溜め息混じりに聞こえてきた言葉は昨日彼女から理性を一瞬なりとも奪い、感情的にさせた言葉と同じものだったが、この時のエナはジストを少し振り返り鼻で笑った。
 「馬鹿言うな。あたし縁側でお茶、すするようなおばあちゃんになるんだから」
 「それはまた豪(エラ)く似合わない将来像だね」
 話しながらも彼らは走る。迎え撃つ集団へと向かって。
 「趣味は囲碁よ」
 「そりゃジジイだよ?」
 エナはぶんぶんと三節棍を振り回した。
 「それか、ゲートボールかなっ?」
そう言ってエナは影団の集団の中に飛び込み、下から上へと三節棍を振り切った。
一瞬呻いたあとその場に倒れこんだ数人の男たちを、ジストは呆れたような目で追う。
 「……随分アクティブなゲートボールになりそうだね」
 同情するような目付きで痛みに悶える男たちを一瞥したジストは嘆息のあと、それはそれは魅力的な笑みを浮かべた。
 「ま、エナちゃんのためなら、たとえ火の中水の中。地獄の底までだって付き合っちゃうよ」
 そうして彼は銃弾を放つ。それが先だっての約定とおり致命傷を避けてくれていることを確認したエナは自身も目の前の男たちに集中する。
 「冗談でしょ。地獄には一人で行って」
 「ちょっ、エナちゃん、それ酷くない!?」
 軽口を交わしながら彼らは次々と敵を薙ぎ倒していく。そんな中。
 「あー、あんたが例の……なんだ、まだ他に仲間が居たのか」
 無気力そうな声が、まだ動ける影団の波を割った。
 その間から悠々と歩いてきた青年は、桃色がかった薄茶色の長い前髪を髪留めで縛りながらにっこりと笑う。
 「本当に来るとはな。お頭は、ああ言ってたがてっきり見捨てたもんだと思ってたぜ」
 影団に楯突くなんて、普通の感覚じゃ出来ねぇもんだからな、と青年は言った。
 「ジストさん的に、そうしたいのは山々なんだけどねぇ。エナちゃんってば案外頑固で困っちゃうな」
 茶化すジストを手で制し、エナはその青年を見据えた。
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