闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「お頭……じゃあ、おれ達は……」
 小さな呟きは頭領には届かない。
 ――おれ達は、死ぬ為に共に居たのか。
 それは、なんという裏切り。
 同じ釜の飯を食らい、共に同じ日の出を迎え、勝利を分かち合う。
 それら全てが、彼にとっては死に向かう為のものでしかなかったというのか。
 駒だと、そう言い切られてしまう程度でしかなかったというのか。
 もう五年以上共に居て、その程度か。
 「だが、死に取り憑かれていた私をこの者たちが救ってくれた」
 救ったのは、この船の誰でもなく、立ちはだかっただけの筈の人間。敵でしかなかった者達。
 「人を生かす者だけが何かを生めるのだと、ようやく気付いたのだ」
 そのような綺麗ごとを、この人の口から聞く日が来るなどとは思ってもいなかった。
 誰よりも、闇が似合う人であったというのに。
 「今、この時を以って私は死神の名を棄て、シャードという一人の人間として生きていく」
 用がなくなれば、いとも簡単に切り捨てられる。自分が救われたからといって、何の相談もなく一人でただの男に戻ろうという。――なんと勝手な。
 「もっと早く、こうしていれば良かったのだ。そうすれば私はお前達を……」
 仲間と、呼べたかもしれぬ。
 ひっそりと噛み締めるように囁かれた言葉にランガードは歯を食いしばった。
 十年近くに渡り、一人の男に魅せられて人生の全てを捧げてきたつもりだった。
 呼べば良い。これから仲間だと呼べば良いのだ。だというのに、この男は、それを拒む。
 「私は船を降り、残る命で贖罪し続ける。船はお前達の好きにするがよい」
 そう言って頭領は――否、シャードは背を向けた。
 感情が彩る漆黒の瞳の先には、海賊影団から唯一無二の頭領を奪った三人組。
 「そなたらには感謝している。これでようやく……私にも明日が訪れる」
 こちらの気も知らず、少女は満面の笑みを浮かべた。
 「あー、じゃあさ、提案なんだけど」
 邪気などまるで無い。腹立たしい程に無垢な存在。
 「シャード。一緒に行かない?」
 頭を鋼鉄で殴られたような衝撃をその言葉に感じてランガードは目を見開いた。

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