envyⅠ


ばばぬきのお礼が浴衣? 普通ジュースとかじゃない?

何度もいいですって断ったのに、結局タクシーに乗り、連れてこられたのは着物のレンタル店だった。

戸惑う私を置いて堂々と咲弥さんはお店に入って、どれがいいの?って浴衣がたくさん並べられた浴衣コーナーで聞いてくる。

「……よくわからない、です」

「んー、何色がいいとかないの」

「しいていえば黒?青っていうか藍色??あ、でも白とかうっすい黄色とかも可愛くて綺麗ですよね?水色も綺麗だし…」

「あ、これとかどう??」
そう言って咲弥さんが持ってきたのは濃い緑のやつで、正直微妙だった。ていうか確かに色んな色を例にあげたけど、緑がいいとは一言も言ってない。

「え、うん…なんか、あんまり」

「そう?アマゾン!って感じで素敵じゃない?」

「は?」

「え、いいと思うんだけど…サキちゃんはどんなのがいいの」

「これ?」
いいな、って思って手に取ったのは、黒よりもずっと青に近い紺を大きい和柄の花で彩った大人っぽい浴衣。

だけどそれを来て鏡の中で突っ立っている私はなんだか不恰好に見えた。

浴衣を着せてくれた40代くらいのおばさんは優しそうな笑みを浮かべ、「今日は夏祭りですものね。
よかったら、少し髪もセットしましょうか」
と髪だけでなくメイクも少しやってくれた。


< 53 / 77 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop