完熟バナナミルク
魔法のステッキ製作所なんて嘘だった。
いや、あたしも馬鹿じゃないよ。そんな物、この世にある訳ないじゃん。
じゃあここは何なのかっていうのは正直分からなかったけど、とりあえずあたしは実験台らしい…。
この一ヶ月、あたしがしてきた事を事細かく指摘され、そして、普通に怒られた。
牛乳は口をつけて飲むな、落ちたお菓子は拾って食べるな、むしろお菓子をぼろぼろ落として食べるな。
ていうか食事が焼肉かサラダって原始人か君は。下着位毎日替えろ。
口に毎回ご飯粒つけてるけど可愛いと思ってるのか?などなど…。
それと、あの、テレパシーだかティンパニーだか言ってたあれ。
あれがあたしに仕組まれた最初の実験だった。

「今回の実験は頭で思っている事を自然と口に出してしまう薬の効能と副作用の検証だ。夜とか酷かったな椎名君。野犬か君は。」

思い出すだけで恥ずかしい。特に三日前の夜。
それはいい、もう済んだ事は忘れよう。あたしは悪くない。

「で、所長、あたしはこれから何をすればいいんすか?」

そう言うと所長はあたしに三つの条件を出してきた。

「私から与えられた物以外口にするな、私の言う事を盲目的に信じろ、私の風呂は絶対覗くな。殺すぞ。」

あたしはバナナを食べながら、幸せについて考えていた。
今まで考えもしなかった、バナナから得られる幸せ。
なんとなくだけど、今なら分かる気がする。
これも所長の何かなんだろうか?あたしはなんだか興奮してきた。
俗世からかい離してゆく感覚に。
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