完熟バナナミルク
心の中で思った言葉が、自然と口から溢れてくる感覚。
初めてだった。自分独りの時以外でこうなったのは。
何があたしに起こっているのか、分からない。
信頼?恋?それとも異生物との接触?

「シンパシーだよ、椎名君。」

シンパシー?何ソレ?
テレパシーとチンパンジーを足して割った様なその言葉に、あたしは思わず鼻で笑った。

「ところで椎名君、ここに実験結果も無事出た事だし、本来の雇用関係について説明しよう。」

実験結果…?本来の雇用関係…?あたしは人差し指の第二間接を噛んだ。

「今まで君がしてきた事は仕事では無く、善意の奉仕活動だ。」

「はっ!どういう事っすか所長!いや所長と言うのも怪しいあなた誰!?」

そうだ、こんな人間居るはずが無い。半獣人?狼男的な?
いや、あたしは知っていた。でも気づかない振りをしていた。
奴の…獅子頭のアフロヘアーはカツラだし、頭皮に体温も感じられなければ、体臭も無い。
フケの代わりにホコリが溜まってるなんて、正直有りえなかった。
奴の頭は…作り物だ。

「君もただのニートでは無いようだね椎名君、実に頼もしいよ。ここに正式な雇用を結ぼう。君は今日から自由になるんだ。全てのシガラミから。」

バナナからふわりと甘い香りがした。
この人はあたしに、何を求めてる?

「椎名君、バナナから得られる幸せを教えよう。」

「まず、マーケットで痛んでいないバナナを選べる幸せ。」

「そして、熟れていく様を実感出来る幸せ。」

「最後に、バナナには外れが無い。どれを食べてもそれなりに美味しいという事だ。」

最後はお前の個人的な感想じゃねぇか。
あたしはバナナを見て笑った。
何だかバナナの色が、幸せの色に思えた、とある午後。
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