雨音色
「その度にお母さんは真っ赤になるだけで、何も言えなかったわ。

時々は悪態もついてしまったり。

でもね、いつかは言おうと思っていたの、私も同じ言葉を」


茶碗を持ち上げ、渇いた喉に茶を少しずつ流し込んでいく。


生まれて初めて、母が悲しそうな顔をしたのを目の当たりにした。


「・・・だけど、言わないまま、お父さんは私を置いて先に逝ってしまったわ」


彼女は両手に持っていた空っぽの茶碗を見つめていた。


「きっと、お父さんは分かっていたよ。

お母さんもそう思っていることぐらい」


彼は確信を持って言った。


「えぇ。そうかもね。でも・・・」


茶碗を藤木は無言のまま、眺めていた。


「後悔だけはしては駄目。

特に大切な人がいるのであれば尚更よ」


ずしり、と心が重くなった。


終わらせる。


そう、決めた筈なのに。
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