雨音色
「えぇ。こう言ったの」


一呼吸付いて、彼女は続けた。


「『愛しています』て」


真っ赤になる彼女の顔は、まるで少女のそれのように見えた。


「お母さん、武家育ちだから、言われた時は恥ずかしくて、恥ずかしくて。

その場に倒れるかと思ったわ。

でも同時に嬉しくて。

結婚してからも、お父さんはしばしば言ってくれたの。

その・・・言葉を」


意外な事実だった。


物静かそうな父が、母にそう言っていたなんて。
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