雨音色
Happiness is...
同じ時、藤木家にて、再び訪れた静寂。


壮介は、胸をなでおろし、母は残った茶を一気に喉に流し込む。


「・・・さて、それじゃあ布団でも敷きますか」


母親はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。


「最近使ってなかった客室、この前掃除しておいて良かったわ」


うれしそうに呟く後姿を、彼は見つめていた。


「・・・母さん」


「何?」


優しく微笑む母の表情に、不意に心を突かれた。


「・・・あのね、」


ただ、感謝を伝えたいと思っただけなのに。


上手く、言葉がでてこなかった。


むしろ、心の中には違う言葉が浮かんでいた。


必死だった自分の中に静寂が訪れたと同時に、違うものが生まれて来ていた。


それは、あまりに不透明な未来。


不確実要素で成り立つ未来が、彼の心に、じわじわと不安を生みだしていた。


保障されない未来に望む、ただ一人の人。


その人と未来を描くことさえ、彼に資格は無い筈だった。


高望みをし過ぎているのか。


希望なんか見えない。


ただ、不安だけが募っていく。



「・・・もしも、もしもだよ・・・」


もしも。


仮定を表すその言葉を用いる時、


大方それは、否定的な未来を予測する事が多い。


彼も、その例外ではなかった。


「・・・幸花さんと・・・もう、2度と・・・」


そう言いかけた時、母は振り向いて、彼のそばに歩み寄った。


そして、突然その口を塞いだ。


「ダメ」


「・・・?」


「もしも、なんていう未来は存在しないの」


静かに、そう彼女は言った。

< 117 / 183 >

この作品をシェア

pagetop